今日はお気に入りの本をご紹介します。
「おまえはケダモノだ ヴィスコヴッツ」
短編のストーリーで構成されるお話しで
ヴィスコヴィッツという名の主人公がいくつもの動物として登場します。
清純派の明るい女性ラーラと魅惑の女性リューバ、
決して本命ではないけれどいつも側にいてくれる滑り止めの女性ヤーナ
脇役のズゴティチュ、ペトロヴィチュ、ロペツ
という決まった位置関係の登場人物とともに物語は続きます。
ヤマネのヴィスコヴィッツは、
眠っている間こそ最高の時で
起きている現実の世界は地獄のようだと言います。
最高の夢を描くためには、現実はより退屈なものでなければならない。
退屈と欲求不満からなる人生こそが自分を満たす豪華な夢をみせてくれる
そう考えるヴィスコは、
群の中でも一番醜くうんざりさせられる存在の
ヤーナをあえてパートナーに選び
夢の中で魅惑の女性リューバを思い描きます。
だけどリューバは
何ひとつ不自由の無い世界では生きている心地がしないと言い
結局、この世の俗悪のすべてを
夢の中に思い描かなければならなくなるのです。
フンコロガシのヴィスコヴィッツは糞の貯蓄に身を費やします。
糞(物質)の奪い合いで父を亡くし
より多くの糞(物質)を持つものに着いて行った母に捨てられます。
糞(物質)こそすべてなんだと悟ったヴィスコは
それが汚いものだと知りながらも
ひたすら頭を使って糞を集め、膨大な富を築きます。
ある日自分がフンコロガシではなくて
葉を食べるコフキコガネであることに気がつきますが
もうすでに糞(物質)まみれの世界から出る事は難しいのでした。
アトリのヴィスコヴィッツは
カッコウに託卵されることを恐れるあまり
自分の子供たちのことが信じられません。
サソリのヴィスコヴィッツは
細かな振動で反射的に毒針を向けてしまう自分が
他の者を傷つけずに愛し幸せな家庭を持つことなんてできないと悩みます。
情熱的な愛に燃え、野心を抱き、権力に溺れ、人生の目的について悩む
残酷でふしだらで、だけど大笑いしてしまうケダモノの魅惑
普通に人間社会で繰り広げられているであろう善悪を
生き物の世界に変え、おもしろおかしく表現したこのお話し。
生物学者が書いたと言うだけあって
どのストーリーも生き物の特徴にピッタリあっている所や
文章の中に沢山の言葉遊びがしかけられてあり
表現力が実におもしろい本です。
お薦めの本です。ぜひ読んで見て下さい。
「おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ」
著 アレッサンドロ・ボッファ
訳 中山 悦子
河出書房新社